自治体が行う実証実験とは|実証実験が行われるテーマやメリットについても解説
近年、実証実験という言葉を目にするようになりました。地方自治体が直面する課題を解決するために有効だといわれますが、実際にはどういったものなのでしょうか。
ここでは、各地で盛んに行われている実証実験とは何か、具体的なテーマや実例とともにご紹介します。
目次
実証実験(PoC)とは
実証実験は、PoC(Proof of Concept)とも呼ばれます。新たな技術やサービスを社会へ導入する前に、地方自治体と民間企業や研究機関が連携して実証実験を行い、効果・課題・改善方法を検証することです。
一般に地方自治体は前例を重視するため、新しい技術や制度を取り入れるのが難しい傾向にあります。民間の柔軟な発想を取り入れ、地域や期間を限定した実験をすることによって、前例のない試みを導入しやすくなると期待されているのです。
自治体の実証実験のメリット
実証実験は現在、各地で幅広く行われています。その分野は、防災・ローカル5G・スマートシティ・Society5.0・MaaS・地方創生など、多岐にわたります。地方自治体が民間企業と協力して実証実験を行うメリットは、主に以下の3つです。
コスト・工数の削減
注目したいメリットの1つは、コストや工数の削減です。
新たなアイデアを形にする際、最初から全体を進めようとすると思わぬ問題にぶつかり、前へ進めなくなる恐れがあります。適切ではない方向へプロジェクトが進んでしまうケースもあるかもしれません。
しかし、実証実験として地域や期間を限って実施すれば、問題点を見つけやすく早い段階でやり直しも可能です。結果として無駄なコストや工数を削減できるのです。
プロジェクトのリスク削減
2つ目のメリットは、プロジェクトのリスク削減です。
実証実験では地域や期間を限定しているものの、実際の環境において実物を用いて検証するため、その効果や安全性などを具体的に確認できます。
プロジェクトを実行する現場の人や利用する人の意見をきめ細やかにすくいあげることによって、問題点を早期に見つけ解決策を探ることができるため、リスクを低目に抑えながら検証を進めることが可能です。
実現性と費用対効果の確認
3つ目のメリットは、プロジェクトの実現性や費用対効果を前もって確認できることです。
狙いとしていることが実現できているかどうか、細かなデータが集まるため、そのアイデアが机上の空論に留まらないことを実証できます。
また、プロジェクトにかかる費用と、それによって得られる効果を具体的な数値で掴めるため、感覚的な判断に頼ることなく客観的に費用対効果を確認できます。地方自治体の予算を使って実証実験を行う以上、これらの確認は重要です。
自治体の実証実験のデメリット
実証実験には、メリットと表裏一体ともいえるデメリットも存在します。どのようなデメリットがあるかを理解しておくことで、問題を回避できます。
ここでは、考えられるデメリットを2つご紹介しましょう。
実験回数増加によるコスト増大
先に、コストの削減がメリットの1つであると述べましたが、実証実験の回数が増えればコストが増大する恐れがあることも、また事実です。
正しい検証結果を得るには、1回の実証実験では不十分である場合もあると考えられます。しかし、際限なく実験を重ねることは無駄なコストを発生させます。実証実験のコストと効果のバランスをよく見て、最小限の回数で実証できるように見通しを立てましょう。
結果が出るまで時間がかかる
デメリットの2つ目として、結果が出るまでに時間がかかることが挙げられます。
最初にプランを立てるところから、実施・検証・評価と丁寧に進めていくとなると、どうしても数か月あるいは年単位の時間がかかります。実験が長期間に及ぶ場合は、実証実験そのものが目的化することのないよう気をつけましょう。前もって実証実験を行う目的や過程を明確にしておくことが求められます。
自治体の実証実験のステップ
直面している課題の解決に向けて地方自治体が実証実験を行うには、目標・実施・検証・評価といったステップを踏むことになります。
それぞれのステップについて、見ていきましょう。
目標設定
実証実験を行う目的は、プロジェクトが実現可能かどうかを見極めること、あるいは、プロジェクトによって期待している効果が上がるかどうかの確認です。そのためには、具体的にどのようなデータが得られれば効果が上がったといえるのか、その目標を明確に設定しておくことが必要です。
実施
明確な目標を設定したら、それに向けて実施する内容を精査し実行します。実証実験は地方自治体と民間企業が協力するほか、自治体内部でも複数の部署をまたいで実施する場合が多いため、連携の取れたチーム作りが必要とされます。
検証
対象となるサービスや技術を、できるだけ実際の現場に近い環境で実施することが大切です。さまざまな層の人に使用してもらうことで、より有用な検証結果が得られます。数値としてのデータのほか、実施する人や使用する人の所感なども収集しましょう。
評価
検証で得られたデータを最初に設定した目標と照らし合わせ、実現性があるか、期待した効果が得られるかどうかを評価します。ここではうまくいった部分だけでなく、課題を明らかにすることも重要です。プロジェクトをこのまま進めた場合のリスクや費用対効果を把握し、課題の解消へつなげましょう。
自治体の実証実験によく選ばれるテーマ
実証実験は現在、さまざまな方面で実施され、効果を上げています。
ここでは、地方自治体の実証実験によく選ばれるテーマを5つご紹介しましょう。馴染みはなくとも、どこかで目にしたことのある分野があるかもしれません。
MaaS
MaaS(マース)とは、Mobility as a Serviceの略称です。地域住民や旅行者一人ひとりのニーズに応じて複数の移動サービスを組み合わせて提供する、次世代の交通サービスを指します。
目的地での観光や医療など交通手段以外のサービスとも連携したシステムを構築することにより、移動の利便性だけでなく地域の課題解決にも資すると期待されているのです。これについて国土交通省は、全国への早急な普及を目指し、実証実験の支援を拡充しています。
ローカル5G
ローカル5Gとは、最新の通信規格である第5世代移動通信システムを、限られた範囲で利用できるように構築したものです。地方自治体や民間企業が主体となり、建物や敷地内に基地局を設置してネットワークを構築することによって、地域の課題解決につなげることが期待されています。
総務省は令和元年に「ローカル5G導入に関するガイドライン」を公表しました。これを受けて、地方自治体や民間企業の間で実証実験が行われています。
参考:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン(令和元年12 月)」
ドローン
ドローンは開発当初に多く見られた空からの撮影という枠を超え、農業・流通・防災・エンタテインメントなど、幅広い分野で活用されるようになりました。現在では多くの地方自治体が、さまざまな問題解決や地域活性化に向けて、ドローンを活用しようとしています。
しかし、ドローンをより有効活用するにはどうしたらいいのか模索している地方自治体も多く、ドローン利活用の可能性を求めて実証実験が行われています。
メタバース
メタバースとはインターネット上に構成された3Dの仮想空間です。利用者はアバターと呼ばれる自分自身の分身を介して動き回り、周りの人達とコミュニケーションをとったり経済活動を行ったりします。
このメタバースを導入した地方創生の取り組みが、地方自治体の間で広まっています。メタバースで再現した街に人々を招いて地域の魅力を発信する、あるいは、家に閉じこもりがちな高齢者の交流の場とするといった実証実験が行われ、一定の効果が認められているのです。
スマートシティ・Society 5.0
内閣府によると、スマートシティとはIoTやAIなどの新しい技術を活用して、直面している課題の解決を行う都市や地域のことです。インフラの向上・災害対策の強化・交通渋滞の緩和などが期待されます。
参照:内閣府「スマートシティ」
また、内閣府によるとSociety 5.0とは、狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会に続いて日本が目指す、未来社会の姿とされています。現代の情報社会(Society 4.0)が抱える課題を、IoTやAIといった最新の技術をもって克服し、仮想空間と現実空間の融合を目指します。このSociety 5.0実現の場として、スマートシティにおいて実証実験が行われています。
参照:内閣府「Society 5.0」
自治体の実証実験事例
ここでは地方自治体が行っている実証実験の具体的な事例を、3つご紹介しましょう。
現在、新たに地方自治体が抱えている課題と、それを解消するためにさまざまな技術を導入して検証している姿が見えてきます。
埼玉県におけるメタバースの実証実験
埼玉県では令和4年9月に株式会社日本旅行と協力して、メタバース上に「さいたまルーム」を構築し、観光や各種イベントの情報発信を試みる実証実験を行いました。
また令和5年2月には、日本マイクロソフト株式会社をはじめとする民間企業4社と提携し、浦和駅から埼玉県庁への通りをメタバース上に再現しました。
この実証実験で試みたのは、地域の文化やイベント周知など行政サービスに関する情報発信です。参加者を埼玉県庁職員に限った実証でしたが、メタバース活用による行政サービスを検討する契機にしたいとしています。
群馬県前橋市におけるMaasの実証実験
群馬県前橋市では、自動車に依存する社会からの脱却を目指して「MaeMaaS」と呼ばれる前橋版MaaSの実証実験を行ってきました。国土交通省や経済産業省の支援を受けて2020年1月から2022年までの間に3度実施し、本格的な運用を目指しています。
具体的には、MaaSによって市内公共交通の一括ルート検索・予約・決済を、スマートフォンのアプリでできるようにするというものです。実証実験によって、タクシー・デマンド交通の配車予約と運賃の決済、旅館や飲食店といった商業施設と円滑にシステム連携できることなどを検証しました。データ分析の面で、NTTデータの支援を受けています。今後さらに群馬県とも連携を深め、県全域へとMaaSを広げていく構想になっています。
福岡県福岡市におけるスマートシティの実証実験
福岡県福岡市では都市の持つ地理的・文化的な特性や強みを活かした「Fukuoka Smart East」に、官民学の連携のもと取り組んでいます。スマートシティを目指した技術の実証実験を行う民間企業を支援し、技術の実装や検証を推進しています。
自走で配送するロボットの走行デモ(2018年)、冷蔵庫型生鮮宅配ボックスの実験(2021年)、自動ドアセンサーを活用し街の賑わいを創出する実験(2022年)など、今までに多様な取り組みを支援しました。今後も実証実験やPR活動を継続し、スマートシティの実現を目指します。
まとめ
地方自治体が行う実証実験には、各種のコスト削減に効果があるだけでなく、プロジェクトの効果を効率的に最大限引き出すためにも有効です。民間企業と連携して実証実験を実施するためには、目標設定から検証や評価にいたるまでのステップを確実に進めていくことが大事だといえます。また、全国の地方自治体が進めている実証実験に目を向け、有効な事例を取り入れていく柔軟性も必要です。
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