自治体が業務を民間委託するメリットと方法について解説|実際の事例も紹介
地方自治体のサービスに民間委託が導入されるようになったのは2000年頃からで、現在もさまざまな分野で盛んに行われています。
ここでは、地方自治体が民間委託をするメリットや方法を、各地の事例とともにわかりやすく解説します。
目次
自治体が民間委託をする理由
民間委託とは、本来、国や地方自治体などの行政機関が行う公共サービスを、契約を交わした民間業者に行ってもらうことを指します。
公共サービスを行政機関が自ら行わず、外部に委託するのはなぜなのでしょうか。考えられるメリットは、主に以下の2つです。
各種コストの削減
第1のメリットは、コストの削減です。
行政サービスの一部を民間に委託することで、これまでその業務に携わってきた地方自治体職員の人的コストが削減できます。また、民間のノウハウや創意工夫を取り入れることによって、採算性の向上も見込まれます。
財政難を抱えている地方自治体が多い中、行政サービスにかける各種コストを削減できる点は、大きなメリットであるといえるでしょう。
h3:行政サービスの向上
第2のメリットは、行政サービスの質の向上です。
民間企業のこれまで行政にはなかったサービスを取り入れることで、新たなノウハウが蓄積され、サービスの品質向上が見込まれます。また、民間委託によって業務に余裕が生まれた職員が、重要なコア業務に専念することも可能です。
採算性の向上や安定したサービスの提供が求められる中、地方自治体にとって民間委託は欠かせないものとなっています。
個別と包括の違い
民間委託の発注方法には、性能発注方式と仕様発注方式という2つの種類があります。それぞれの内容やメリット、デメリットをご紹介しましょう。
性能発注方式
地方自治体の部署や業務ごとに委託契約を締結して発注するのが、性能発注方式です。契約を締結した民間業者は地方自治体の補助者として、決められた仕様書のとおりに業務を行います。
業務に関する責任の所在は地方自治体にある場合が多く、単年度契約がほとんどです。そのため、業務改善がされにくいというデメリットがあります。
仕様発注方式
地方自治体の部署や年度を超え、包括的に委託契約を締結して発注するのが、仕様発注方式です。ともいいます。業務を行う上で地方自治体が作った仕様書があるわけではなく、民間企業側に裁量が委ねられています。
原則として複数年度契約であり、民間企業が包括的に業務を把握しているため、業務改善がしやすいという点が大きなメリットです。
自治体が民間に業務委託する方法
地方自治体が民間業者に業務委託するには、さまざまな方法があります。ここでは5つの方法について解説しましょう。
業務委託
業務委託とは、民間業者に対し意思決定までは任せずに業務だけを依頼するという、最も一般的な方法です。
地方自治体が作った仕様どおりに業務を行ってもらうことによって、運営のコストを削減できます。民間企業が専門としている分野を依頼することで、サービスの品質向上が期待できます。
指定管理者制度
図書館や保育園などの公共施設管理を民間企業に委託するにあたって、施設の管理だけでなく運営の範囲まで広く委託する方法を、指定管理者制度といいます。委託された民間業者は施設運営の企画立ち上げから関われるため、自分達の強みを生かした経営プランを取り入れることができ、運営を黒字に転換させることも可能です。
ただし、指定管理者を適切に選定しなければ、かえってサービスの質を落としたり、施設本来の目的を逸脱してしまったりする恐れがあります。選定には注意を払わなくてはいけません。
PFI
PFIとはPrivate Finance Initiativeの頭文字をとった略称で、公共事業を実施するための手法の1つです。民間企業が主体となり、その資金や経営手腕を活用して公共施設の設計・建設から維持管理・運営までを行います。
PFIによって、地方自治体が行うよりも効率的なサービスを提供することができ、運営コストの削減にもつながります。この手法を取り入れる際は、地方自治体が依頼先の企業を適切に管理・指導することが重要です。
包括連携協定
包括連携協定とは、地域の課題に対して地方自治体と民間企業が分野を限定することなく協力し、解決を目指す協定です。仕様や予算を地方自治体が決めるのではなく、さらに早い政策決定の段階から民間企業と連携することによって、隠れた課題の解決や無駄なコストの削減につながります。
包括連携協定には、住民のニーズに合わせたサービスを提供しやすいほか、行政機関内の人員不足を補えるといったメリットもあります。その反面、協定締結後の効果が見えにくく、地方自治体と民間企業との間で意識のすり合わせをするのが難しいという課題もあるため、協定の中身を曖昧にせず具体的に決めておくことが必要です。
官民連携提案制度
官民連携提案制度とは、民間企業からの提案を受け付ける窓口を置き、その提案を積極的に受け入れて事業化するまでを制度化したものです。
かつては地方自治体の各部署が別個に企業からの提案を受け付けていたため、窓口が分かりにくいという問題がありましたが、この制度ができたことによって、民間企業との事業連携がスムーズになりました。ただし、提案から実施までに時間を要する、場合によっては効果が得られない、といった課題も残ります。
民間委託しやすい自治体業務
民間委託は現在、地方自治体において幅広く導入されています。実際にはどのような業務が委託されているのでしょう。ここでは、民間委託しやすい自治体業務を5つご紹介します。
窓口業務
地方自治体の窓口業務は専門性が高いものの定型的な面があり、積極的に民間委託が進められる分野です。しかし、個人情報漏洩の懸念や、思ったよりも経費削減が見込めないことから、業務委託がなかなか進まない傾向にあります。業務手順の見直しや、委託業者のセキュリティ体制を精査したうえで、業務委託を進めましょう。
公金債権回収業務
施設管理業務は、指定管理者制度やPFIなどの方法により、民間委託が推進されている分野です。清掃業務を例に挙げると、多くの地方自治体で業務委託が進んでいます。今後は警備や設備の管理などを一括して委託することも検討する余地があります。
ただし、経費削減効果を過剰に求めると、業務の質が低下する恐れがあるため注意が必要です。委託業務の範囲や質を、委託契約時に明確にすることが求められます。
公物管理業務
近年、道路や下水道などの老朽化に伴って維持管理のための費用が増大しています。また、公物管理に携わる人材の不足も課題とされており、民間企業との連携が急務です。民間企業の知見を活用することにより、質の高い業務を効率的に行うことが可能となります。
総務業務
総務業務は、民間委託を進めれば人的コスト削減が期待できる分野です。しかし、総務業務の民間委託は、都道府県や政令指定都市に比べると、市町村においてあまり進んでいないのが現状です。スムーズな民間委託に向け、業務内容の棚卸しや総務業務に適した全庁同一システムの導入を検討してはいかがでしょうか。
自治体業務の民間委託事例
全国のさまざまな地方自治体で、民間委託の導入が進められています。その事例をいくつかご紹介しましょう。
千葉県市川市
千葉県市川市では「市川駅行政サービスセンター」に、住民異動届・戸籍謄抄本等の交付・印鑑登録などを委託しています。その目的は、市民の利便性向上と経費削減です。
施設内では適正な請負を目指し、職員と受託者の執務スペースをパーテーションで区分しているほか、個人情報保護についての情報を共有するため、責任者や社員が参加する朝礼も実施しています。
利便性の向上により、本庁や支所における窓口業務の負担が軽減できたほか、経費削減効果も表れています。
神奈川県大和市
神奈川県大和市では、芸術文化ホール・生涯学習センター・図書館などの複合施設「シリウス」の指定管理者として、事業共同体「やまとみらい」を指定しています。「やまとみらい」を構成するのは、株式会社ボーネルンド、横浜ビルシステム株式会社などの6社です。各社ともそれぞれの強みを活かした事業提案をしています。
図書館においては個人情報保護の研修を全スタッフが受講するほか、セルフモニタリングにより運営の改善を図るなど、サービスの品質向上に努める活動をしています。
東京都東大和市
東京都東大和市では平成31年4月より、納税管理や徴収補助等業務を民間委託しています。契約期間は令和6年3月までで、委託内容は、納付案内業務・電話受付業務・滞納整理関係補助業務などです。
労働力不足の解消がねらいで ICTを活用できる民間企業に業務を委託した結果、1年後には市税収入額が約1億円増え、業務の効率化も実現しました。業務の領分を分けることで、市職員と委託従事者の間で適切な連携を図っています。
高知県高知市
高知県高知市では、市の窓口業務を民間委託するにあたり、窓口業務アウトソーシングのワーキンググループをつくり検討を重ねました。委託した業務は、住民票の写しなど交付にかかわる郵送や窓口業務で、委託の目的はコスト削減ではなく、民間ノウハウの導入によるサービスの向上です。
委託のメリットとして「管理事務の軽減」「職員本来の業務対応」「市民サービスの向上」を挙げているほか、懸念事項として「委託料等の県外流出」「官製ワーキングプア」「職員業務知識の維持・継承」を挙げています。
岩手県
岩手県紫波町では「紫波浄化センター」の運転管理について包括的民間委託を実施しています。委託業務の内容は、下水処理場の運転管理・ユーティリティ管理・修繕などです。設備の点検業務についても、民間企業に委託していますが、異常が発見された場合には状況確認や復旧作業などすべてを町職員が行っています。
使用料にかかわる業務も民間企業に委託することで収納率向上の効果が見られることから、今後も委託内容の改善を図りつつ継続していく予定です。
まとめ
地方自治体における行政サービスの民間委託は年々広まっています。各地の事例に目を向けると、人的コストや歳出の削減、サービスの品質向上に効果を上げている例が数多くあります。一方で、民間企業と連携を取りつつサービスの質を維持することの難しさなど、課題も少なくありません。
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